沢庵

この水上勉氏の「沢庵」は小説ではなく、沢庵の門人武野宗朝という方の残した「行状」「紀年録」というものを参考に沢庵の生涯を追ったものだ。

沢庵は幼少より天才肌というよりは努力家であったらしい。

権力に自らの純禅を冒されることを嫌い貧乏を選んだ。

替えの衣装など持たず、着ている黒衣を洗濯すると素っ裸でいたそうだ。

マザーテレサが言っていたのだが、我々シスターは今着ているものともう一枚の着替え、それを洗濯するバケツしか自分の持ち物はありませんと語っていたのを思いだした。

沢庵を述べるなら「謙虚」という言葉を外すことが出来ないのだが、彼の残した遺戒を読むと既に謙虚ということを通り越して何か自身を語るもの、残すもの全てをこの世から消し去りたいというような感じさえある。

 

「わたしに法をつぐ弟子はない。わたしの死後、もし沢庵の弟子と名のる者があったら、それは法の賊である。官に告げて厳罰にせよ。わたしは存命中、衣鉢を先師の塔に還した。従ってぼろをまとうた黒衣の僧にすぎぬ。香典と称して持ってこられたら、たとえ芥子粒ほどでも受け取ってはならぬ。わたしの身を火葬にしてはならぬ。夜半ひそかに担ぎ出し、野外に深く地を掘って埋め、芝を持っておおえ。塚の形を造ってはならぬ。捜しだすことができぬようにするためだ。身のまわりを世話してくれた、二、三名も二度とその場所に詣でてはならぬ。とくに年忌と称するものを営んではならぬ。」

 

権力に迎合することなく、句を愛し、徹底した禅を生きた高僧であった。

沢庵 (中公文庫)

沢庵 (中公文庫)