ブラックスワン

映画「ブラックスワン」のネタバレです。

お気をつけください。

 

子供の頃、映画好きの父に連れられ、よく映画館へ行った。

私が育った町には映画館はなく、隣町まで足を運ばなければならなかった。

田舎町で暮らすと手頃な本やマンガに手を伸ばす機会が多く、成人して街へ出た後も映画を観に行くことはあまりなかった。

食事もひとり、飲みにいくのもひとり、ライヴもひとりでいくこの私が、映画だけはひとりで行ったことがない。

 

映画好きの友人に勧められ、そして映画をよく観られるブロガーさんのこの作品は傑作であるとのレビューにすっかり気を良くし、意気揚々と知人とふたり、震災の影響で仙台で現在1件しかやっていないミニシアターへと出かけた。

 

お目当ては「ブラックスワン」

しかし、私はこの映画の感想を書く資格が無い。

なぜなら、3分の1はスクリーンを観ていないからである。

 

怖過ぎて。

 

サイコスリラーとは聞いていたのだが、ホラーの要素も入っている。

子供の頃、父と「サスペリア」を観に行ったことがある。

「決してひとりではみないでください」というあれである。

子供にこんなもん観せんなよクソ親父、と思ったものだが、父も一人では観られなかったのだろう。

 

なら、ホラー的シーンが怖かったのかと言えばそうではない。

主人公ニナの進行する狂気が怖かったのでもなく、彼女の息づかいが怖かったのである。

最初から最後まで臆病なヒロインの「はぁはぁ」という息づかいが1時間48分。

これが観客を異常な緊張状態へと誘う。

見事な手法である。

洞穴で生活していた時代から人間の根本的な恐怖は二通りしかないそうだ。

ひとつは落下の恐怖、そしてもうひとつは音の恐怖。

 

音の使い方は「エクソシスト」に似ているような気がするが、やはり白鳥の湖は名曲だ。

やるな、チャイコフスキー

その主人公の過呼吸になりそうな呼吸とともに幻覚があいまって、さらに大きな音で私の小さな心臓を刺激する。

あぁもう生きて帰れない。

さようなら、独り待つ名犬君よ。

 

もう私の心臓はもたない。

頭は締め付けられて痛くなり、手はすでに冷たくなっている。

飲んでいたコーラを飲みきれず、恐怖のために持っていることも困難な私は一度トイレへ出向くという失態をさらした。

この映画は鏡のシーンが多いのであるが、トイレの鏡が怖くてみれない。

そして何より上映中の館内へ入っていくことが出来ないのである。

あぁ、臆病者。

しかし友人を一人残しておくわけにもいかず意を決して挑む。

骨は拾ってくれ。

私基本、天才とか芸術家の苦悩ってすごく好きなジャンルなんですけど、怖さが先に立って堪能できない。

 

狂気的なシーンを経て、ラストの白鳥の湖の舞台は圧巻だ。

ニナが悪魔と化し、黒鳥となって踊るシーンは鳥肌ものである。

ナタリー•ポートマンは「レオン」のイメージを見事に払拭させた。

ライバル役のミラ•クニスもいい味だ。

 

しかし、ラストシーンは少し不満が残る。

血をにじませながら主人公ニナが落下するシーンなのだが、客席のスタンディングオベーションの後にキャストやスタッフがブラボーと集まるシーンがあるのだが、あそこの「救急車呼べ」はいらないな。

落下しながらニナの「完璧だわ」というセリフとともにスタンディングオベーションで大団円の方が良かったんじゃないか、私ならこう撮るぜ、監督よ。

 

やはり恐がりゆえ、細部まで観ることのできなかった部分が無性に気になる。

落ち着いて全体を観てみたい。

刺激ってやっぱりそんなもんなのかな、映画を見終わってから数時間経っても、まだはぁはぁしてるのにもう観たくなってる。

 

恐怖は作れる。

 

心臓に自信の無い方や過敏で入り込みやすい方は遠慮した方がいいけれど、DVD化してから自宅でのんきにビール片手に眺め「たいしたことなかったよ」なんて感想は是非とも聞きたくない。

強者よ、映画館へ行け!

 

あ、でも映画好きの人はそんな恐くないみたい。

あたしはナタリーと一緒になってはぁはぁしてたけどねぇ。

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